愛知医療学院短期大学

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教員リレーコラム

「先天性風疹症候群から赤ちゃんを守ろう」

杉山 成司 [理学療法学専攻]

風疹は"三日ばしか"とも呼ばれ、3~4日で治癒する風疹ウイルスによる感染症です。38℃前後の発熱、全身に広がる発疹、耳や首後部のリンパ節の腫れ、咳・鼻などの風邪症状がみられます。経過は比較的軽く、症状が出そろわない例や"かぜ"などと見なされることもあります。風疹にかかっても半数近くは症状が現れない不顕性感染者ともされています。治療としての特効薬はなく、安静にして解熱薬、感冒薬などで様子を見ます。無症状の人はそのまま野放し状態ですがウイルスは保持しており、感染源となる危険性があり問題となります。

風疹で最も注意すべきことは、妊婦さんへの感染です。特に妊娠3~4ヶ月までの妊娠初期に感染するほど胎児への影響は大きくなります。感染が胎児に及んだ場合、病原性が強く働けば流産します。そこまで強くなければ妊娠は継続されますが、妊娠初期は臓器・器官の形成時期と重なり、胎児には様々な障害が生じます。これが先天性風疹症候群で、心奇形、難聴、眼の異常(白内障、緑内障)のほか、中枢神経系の障害(精神・運動発達の遅れ)も見られます。

そこで大切なことは、妊婦さんが風疹に対する抵抗力である抗体(免疫力=抗体価)を持っているかどうかです。十分な抗体があれば、感染を防げて赤ちゃんを先天性風疹症候群から守れるのです。調査では風疹抗体価の低い妊婦さんは2~3割ともされ、また妊婦さんへの感染は、職場周辺の男性や夫からのケースも少なくないとされています。未確認例や不顕性感染が多い風疹では、赤ちゃんが生まれてはじめて先天性風疹症候群に気付かされることにもなります。

有難いことですが、風疹には有効なワクチンがあり予防可能です。新型コロナウイルス感染症を持ち出すまでもなく、ワクチンの種類は限られています。利用できるワクチンはしっかり活用してください。風疹ワクチンですが、1回接種だけでは不十分な場合があり、2回接種が勧められています。母子手帳などに接種歴があれば参考になります。妊娠中の予防接種はできません。また、接種後2ヶ月間は妊娠を控えてください。風疹の抗体検査(血液)は大抵の医療機関で行うことができます。

問題なのは女性だけではありません。2013年の風疹の大流行時には、男性患者数が女性の3倍ほど多くみられたなど、先天性風疹症候群の予防には男性への接種が必須と考えられます。2019年から厚生労働省は「先天性風疹症候群の発生をなくすとともに、令和2年度までに風疹の排除を達成」する目標を掲げ、昭和37年から昭和54年生まれの男性(この世代は抗体保有率が低い)を対象に、風疹の抗体を検査し、免疫が不十分な場合は無料でワクチン接種を行うことを決定しました。抗体検査は市区町村が送付するクーポン券の利用で無料です。ただ残念ながら、検査を受ける男性はまだまだ少ないのが現状です。

"予防にまさる治療はなし"。先天性風疹症候群をゼロに近づける努力は社会全体が動かなければ達成できません。対象男性は働き盛りで忙しく検査を受ける余裕がないのかもしれません。しかし、今度のコロナ騒動では在宅勤務がかなりの広がりをみせたように、会社なり団体なりの関心度・やり繰り次第では、時間調節も可能なように思えます。皆さん一人ひとりのちょっとした意気込みが、一人の赤ちゃんの未来を守る・・・素晴らしいことではないでしょうか。実現したら乾杯しましょう!

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