教員リレーコラム

「バイタルサイン」

石川 清[学長]

新型コロナウイルス感染が、この地域でも問題になり始めた3月初めから、毎朝起きた時に体温、血圧、心拍数を測るのが日課となりました。途中から健康手帳(図1)を作って、体重、睡眠、運動、その他の体調の変化も記録するようになりました。今までの人生の中で、これほど体調管理に一生懸命取り組んだことはなかったかもしれません。お陰で日々の体調の良し悪しを自分自身でかなり判断できるようになりました。 そもそも体温、血圧、心拍数はバイタルサインと呼ばれる項目に含まれるものです。バイタルサインとは「生命徴候」のことで、人が生きている兆候を表し、その状態を把握するための最も重要なサインであり、病院等では医療従事者が患者の状態を把握するための基本的、かつ重要な指標として使っています。バイタルサインには、上記の体温、血圧、心拍数に加えて、意識レベル、呼吸数、尿量があります。 私の医者としての専門領域は麻酔・集中治療で、手術患者やICUの重症患者管理に長年関わってきました。麻酔・集中治療医の仕事は、一言で言えば手術患者やICUの重症患者のバイタルサインを安定させることであり、バイタルサインを管理するのが仕事と言ってもいいかもしれません。今までICUで生死にかかわる多くの重症患者管理を行ってきた中で、バイタルサインの重要性を認識するとともに、バイタルサインの変動で生命の危機が迫っているかどうかを判断できるようになりました。 医療従事者にとって、患者のバイタルサインを測定しそれを正しく評価することは医療の基本中の基本です。将来、OT、PTとして働く学生の皆さんにとっても、バイタルサインの習得は不可欠で、例えば、リハビリ施行時にリハビリを中止する基準はバイタルサインで判断することが普通ですし、災害時のトリアージもバイタルサインを指標として実施されます。 新型コロナウイルス感染の恐怖がまだまだ続く状況下では、学生の皆さんも当分の間、体温測定をはじめとした体調管理が必要になります。そして万が一、新型コロナウイルスに感染して軽症と診断されて、指定されたホテルで経過観察する場合にも、重症化を早期に発見するためにバイタルサインが頻回にチェックされます。具体的には、看護師等の医療スタッフが遠隔で一人ひとりの患者の血圧、心拍数、呼吸数、動脈血酸素飽和度(注1)などのバイタルサインをリアルタイムでモニタリングし、病状を常時チェックされることになります。そして、呼吸数、動脈血酸素飽和度等の異常が認められれば、その時点で呼吸管理が必要な病院に収容されることになります。 医療従事者を目指す学生の皆さんには、今回の新型コロナウイルス感染への対応の経験から、バイタルサインの重要性を認識して、患者の病状をしっかり把握できる技術を身に着けていただきたいと思います。併せて、日頃から自分自身のバイタルサインを注意深く観察するようにして、万全の体調管理を行うように心がけてください。 (注1) 動脈血酸素飽和度(SpO2) 動脈血酸素飽和度はバイタルサインではありませんが、生命兆候の指標としてバイタルサインと同じくらい重要な指標です。通常はパルスオキシメータ(図2)という医療機器を用いて、指先などの皮膚にプローベを装着して心拍数と同時に測定します。非常に簡便で生体の重要な情報を得ることができるため、病院や診療所など臨床の現場では幅広く使われています。一時、軽症の新型コロナウイルス感染患者が自宅で療養中に突然亡くなる例がマスコミで報道されてから、パルスオキシメータの重要性が話題となりました。多くの一般市民が競ってパルスオキシメータを購入し、真に必要な医療施設に行き渡らなかったことから、学会から一般市民に対して購入自粛の通達が出されました。パルスオキシメータは基本的に医療機器であり、正しく測定しその結果を正しく評価することが重要で医療従事者が使用するのが原則です。 図1.私の健康手帳 techo.png 図2.パルスオキシメータ pulse.jpg
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